額賀澪さんの『青春をクビになって』(文藝春秋)を読んだ。
主人公は35歳のポスト・ドクター、専門は国文学(古事記)である。
彼は大学の非常勤講師をしているが、学内事情から任期内にもかかわらず次年度の契約を打ち切られてしまう。
次の職場をどうしようかと途方に暮れていた矢先、専門が同じで10歳年上の先輩が大学の研究室から貴重な文献(古事記)を盗んで失踪してしまう。
かなり以前から、大学の博士課程を出ても安定した職を得られないことが問題になっている。
「高学歴プア」という言葉があるくらいだ。
とくに人文・社会科学系を専門とする研究者が厳しい。
大学教員として正式採用されるのは、ほんの一握り。
多くの人が人生を棒に振ってしまっているのが現状だ。
仕事を失い、研究者の道を諦めるという選択をする主人公。
当然、物語の内容は明るくはない。
しかし、不思議と暗い気持ちにはならないのだ。
自分の「青春」を終わらせる、「青春」に決着をつける主人公。
心地よい読後感だった。
額賀さんの他の作品を読んでみたいと思った。